肝斑について
肝斑は、両頬やおでこ、鼻の下に左右対称にできるシミの一種です。日光のシミである老人性色素斑では輪郭がくっきり見えますが、肝斑では全体的にもやもや境界がはっきりせずぼやけてみえます。もやもやして見えますが、目の周りなど境界がくっきり見える場所もあります。鼻の下に出るタイプの肝斑では、ヒゲのように茶色くシミがでます。
肝斑と日光のシミ(老人性色素斑)の違い
日光のシミである老人性色素斑(日光黒子ともいいます)と肝斑を見分けることはとても大切です。なぜかといいますと治療の方法がまったく違うからです。
日光のシミである老人性色素斑(日光黒子ともいいます)では、表皮細胞という肌表面の細胞に異常が起きメラニンをためこんでしまい茶色くシミになります。このように老人性色素斑はいわば「できもの」であり、レーザーや光治療で破壊することで除去することができます。一方で肝斑は、肌がメラニンをたくさん作り、貯めやすくなっている状態です。メラニンをたくさん作ってしまうという肌の機能に異常がある状態です。ですので、「できもの」としてレーザーや光治療で破壊することは難しくなります。無理に肝斑をレーザーで破壊すると肌の色が抜けてしまうことや逆に肝斑が濃くなってしまうこともあり、肌に問題が起こってしまいます。肝斑の考え方
肝斑というのは実は一つのシミではなく、肝斑の中にはいろいろな肝斑が含まれています。
図のように肝斑の中には、「広い意味の肝斑(広義の肝斑)」「狭い意味の肝斑(狭義の肝斑)」「スキンケア肝斑」「日光のシミが多発して肝斑に見えるもの」が含まれています。これらの肝斑の要素がそれぞれ混ざりながら肝斑の症状を作っています。いろいろなタイプの肝斑がありますので、肌の摩擦をなくすだけでかなり薄くなる肝斑もあれば、塗り薬がとても効きやすい肝斑もあります。肝斑と一言で言っても様々ですので、どの特徴をもつ肝斑かで治療や治りやすさも変わります。当院ではこのことを念頭に肝斑の診断と治療を行っています。
肝斑の原因
肝斑の原因としては、「紫外線」「女性ホルモン」「遺伝的要因」「肌の摩擦」が関係しています。
紫外線・・・紫外線によって、メラニンを作るメラノサイト、表皮細胞、マスト細胞が刺激されメラニンをたくさん作ってしまう原因になり、また肌の奥の真皮に炎症を起こしてしまいます。
女性ホルモン・・・妊娠・出産や経口避妊薬(ピル)内服によって肝斑が悪くなる方も多く、女性ホルモンは肝斑に密接に関係しています。肝斑のシミの部分では、女性ホルモンであるエストロゲンの受容体が増えていて、メラニンを増やし、さらにメラノソーム(メラニンが入った袋)の受け渡しを促し肝斑が濃くなることがわかっています。
摩擦・・・無意識に日々肌をこすってしまっている方も多く、肝斑の原因になってしまいます。肌の摩擦は肌バリアを壊してしまうのとともに肌に炎症を起こしてしまい肝斑の原因となります。
肝斑で起こっていること
まとめると肝斑の部分で起こっていることは以下の6つです。
- 肌がメラニンを作りやすくなっている
- 肌に炎症が起こっている
- 肌(角質)バリアが壊れている
- 肝斑部は光老化が進んでいる
- 表皮と真皮の境界(基底膜といいます)が壊れている
- 肌に血管が増えている
これらに注目して治療も行っていきます。
肝斑の治療
肝斑では、肌バリアが壊れ、メラニンをたくさん作る炎症が起こっていますので治療の基本はこれらを改善させることです。肌バリアは、紫外線対策と肌の摩擦を減らし、保湿を十分に行うことが大切です。また肝斑の炎症やメラニン産生を抑えるために飲み薬や塗り薬の治療も大切です。肝斑の肌はどうしてもメラニンを増やしやすい状態ですので、治療で少しずつ抑え、またメンテナンスしていくことをおすすめしています。
飲み薬
トラネキサム酸
トラネキサム酸(トランサミン)は肝斑の治療の基本のお薬となります。メラニンを作るのを抑える効果、炎症を抑える効果、肌の炎症の元となる血管が増えるのを抑える効果があります。1日500~1500mg内服することが多く、まず6ヶ月は内服をし、肝斑が薄くなってきたところで少しずつ飲む量や回数を減らしていきます。リスク・副作用は多くはないのですが、下痢・腹痛が出る方がごくまれにいらっしゃいます。経口避妊薬とは飲み合わせが悪いので併用はおすすめしておりません。
ビタミンC
ビタミンC(シナール)メラニンを作るのを抑える効果が報告されています。また抗酸化作用や抗炎症作用も報告されています。様々な論文はありますが、ビタミンCのみではトラネキサム酸より肝斑には効果が弱いデータが多いです。
ビタミンE
ビタミンE(ユベラ)はビタミンCの効果を高めることができます。ビタミンCの抗酸化力を底上げし、相乗効果がみられます。肝斑の方は、肌表面の毛細血管拡張が増えている方もおり、そのような方はビタミンEを内服すると赤みが強くなってしまうので注意が必要です。
塗り薬
ハイドロキノン
ハイドロキノンは、シミの原因メラニンが作られるのを抑えることができ、シミ治療全般に有効な治療です。美白効果の高く、肝斑にも効果を発揮します。効果が高いが故に濃度が濃いものは肌に刺激になってしまうため、当院では安全性が高く、さらに肌への刺激も軽減された製剤を処方しております。
トレチノイン
トレチノインは、肌のターンオーバーを促進して正常化することで、くすみ・しみ・ニキビに対して効果を発揮するお薬です。また、真皮の線維芽細胞に働きかけて徐々にコラーゲン合成を促し、肌のハリ・小じわ・毛穴に対しても効果があります。このように、肝斑だけでなく皮膚の若返り・再生を促すことのできるお薬です。肝斑では、シミの原因メラニンを排出させることができ、また肌環境を整えることで効果を発揮します。更に美白薬のハイドロキノンと併用することにより、相乗効果でより効果を実感しやすくなります。
注意点としては、その効果が発揮される過程で、古い角質・細胞が押し出されるため、皮膚の赤み・かさつき・かゆみ・痛みが出ることがあります。その反応は通常1~2週間がピークで、その後は塗っているうちに徐々におさまり、1~2ヶ月でおおむね消えます。皮膚に反応が出ない場合でも治療効果に問題はございません。当院では、独自設計の薬剤を使用しておりナノカプセルで薬剤を包み込むことにより、薬物を少しずつ放出させることができようになり、その結果、従来の効果を損なわずに、トレチノインの反応(赤み・かさつき等)を低下させとても使用しやすいものを採用しております。
ハイドロキノンとトレチノインについてはこちらもご参照ください
トラネキサム酸クリーム
飲み薬としてのトラネキサム酸の効果が高いように塗り薬のトラネキサム酸も効果が高い塗り薬となります。トラネキサム酸は、肌への吸収もいい(経皮吸収がいい)お薬になりますので塗り薬も効果を発揮します。色素沈着では、飲み薬より塗り薬の方が、より効果が高かったという論文も多く存在します。ハイドロキノン・トレチノインを使っている方に更に追加で使うこともおすすめですし、肌がとても敏感な方、トラネキサム酸を飲めない方にもおすすめしています。
当院ではプラスリスアのTAホワイトクリームMD 10g 2,750円を販売しております。またドクターズコスメであるナビジョンのトラネキサム酸配合化粧水と乳液もおすすめで、敏感肌の方でも安心して使用できます。
導入療法(エレクトロポレーション)
エレクトロポレーションの機器であるケアシスSはイオン導入の20倍以上も美容液を肌に導入できます。肝斑用に開発された、レナトスTaはトラネキサム酸とビタミンCを含んだ美容液であり、ケアシスSによって肌に十分に届けることができます。飲み薬・塗り薬にさらに追加で治療を行いたい方におすすめしています。2週間から1ヶ月間隔での治療がおすすめです。
ケアシスSについてはこちらもご参照ください
ポテンツァ
肝斑は、肌の奥の真皮環境に異常が起こっており、ポテンツァは肌環境を整え、肝斑を改善させることができます。しかし、熱を入れすぎると肝斑が逆に濃くなることもあり適切なモード設定が必要になります。
リバースピール
肝斑専用のピーリングであるリバースピールも効果があります。
肝斑がなかなか薄くならない方にもおすすめです。様々なピーリング剤とコウジ酸などの美白成分が配合されており、3段階のピーリングで色素沈着やくすみ、肝斑を治療していきます。
お肌の状態にもよりますが、2~4週間に1回のペースで5回程度治療することをおすすめしています。
ダウンタイムが少ない治療がご希望の方におすすめです。ニキビや毛穴、小ジワにも効果があります。
ピーリング
サリチル酸ピーリングやマッサージピールも肝斑に有効です。肝斑のタイプを見極めておすすめすることがあります。
当院の症例
症例 【40歳代女性】両頬の肝斑
両頬のシミがお悩みで当院を受診された患者さんです。肝斑と老人性色素斑があり、まずは肝斑からハイドロキノン・トレチノインの塗り薬を始めました。3ヶ月で肌のキメがよくなるのと同時に両頬の肝斑がかなり薄くなっています。
【費用】ナノトレチノイン 15g 14,300円(税込)、ナノハイドロキノン15g 5,280円(税込)(本症例では、総額19,580円(税込))
【副作用・リスク】赤み、かさつき、かぶれなど
まとめ
肝斑は間違った治療をすると逆に濃くなることがあります。肝斑は焦らず着実に治療することが必要です。肝斑か知りたい、肝斑を治療したいなど肝斑にお困りの方はお気軽にご相談ください。