湿疹やアトピー性皮膚炎は皮膚科を受診される方が多い疾患です。 私自身も小さい頃から湿疹に悩まされており、現在もステロイドや保湿剤などの薬を塗っております。 そのような経験から、同じ悩みを持つ多くの人の力になれるよう皮膚科医を志しました。 そのため、湿疹やアトピー性皮膚炎治療に当院では力を入れております。 アトピー性皮膚炎は良くなったり悪くなったり長い間付き合っていくものです。 一度きりの診察ではなく、どのように予防と治療を行ってかゆみやがさがさのない状態を保つかをひとりひとりの症状に合わせて診察と治療をしていきます。
私は東京大学病院にてアトピー性皮膚炎の専門外来を行うと同時に、アトピー性皮膚炎を研究テーマに多数の研究を行っておりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31465744/
アトピー性皮膚炎の患者を診察・治療するだけでなく、基礎研究のレベルから病態を理解し診察・治療を行っています。
湿疹や皮膚炎の治療で基本となるのはやはり今も昔もぬり薬になります。 皮膚に炎症が起こっているので、ぬり薬で直接その炎症を鎮めることは理にかなっていると思います。 しかし、定期的に決められた量を飲むと効果のある飲み薬と違い、 ぬり薬はどのくらいの量を、どのような頻度で、どのくらいの範囲に塗ればいいのか使い方が難しい治療だと思っています。 私はできるだけシンプルな方法で保湿剤やステロイドなどのぬり薬の塗り方を説明するようにしております。 塗り方を変えることで今までなかなか治らなかった湿疹・皮膚炎がよくなることがありますので、是非ご相談ください。
当院ではアトピー性皮膚炎を重点的に治療するため、ぬり薬や飲み薬の治療だけでなく、 体の半身に紫外線を当てる「ナローバンドUVB」、狭い範囲の紫外線治療を行う「エキシマライト」の両者を用意しています。 ぬり薬や飲み薬では治りきらない皮膚炎にはこれら治療がとてもいい治療選択肢となります。 いずれも保険治療です。
湿疹、アトピー性皮膚炎とは
湿疹はかさかさしていて赤みとかゆみを特徴とする皮膚の代表的な病気です。
程度によってはブツブツとなったりジュクジュクしたりもします。
みなさん一度は湿疹を経験したことがあるのではないかと思います。
アトピー性皮膚炎は湿疹の一種です。アトピー性皮膚炎は長引くかゆい湿疹が広範囲に、左右対称にみられる場合の呼び名です。
定義上は小児では2ヶ月、大人では6カ月以上特徴的な部位に湿疹があるとアトピー性皮膚炎と呼びます。
またアトピー素因を多くの患者様がもち、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、結膜炎が含まれます。
報告によってばらつきはありますが、アトピー性皮膚炎の患者様は乳児で 6~32%,幼児で 5~27%,学童で 5~15%,大学生で5~9%と報告されており、
全体的には年齢とともに減少することがわかっています。
自分がアトピー性皮膚炎なのか、お子さんがアトピー性皮膚炎なのではないかと心配される患者様も多く経験しております。
アトピー性皮膚炎の定義は上記のようなものになりますが、しっかり湿疹の治療をしていくことが大切であり、
アトピー性皮膚炎だから治療が変わるわけではありません。
特に現在ではアレルギーマーチといい、赤ちゃんのときにずっと皮膚の乾燥、湿疹があると、
幼児期にアトピー性皮膚炎や食物アレルギーになる子が多いことがわかっています。
このことから赤ちゃんや子どもの頃からしっかりと予防と治療をして皮膚のいい状態を保つことで、
将来的にアトピー性皮膚炎の症状が残るリスクを減らすだけでなく、食物アレルギーやアレルギー性鼻炎も予防できると言われています。
湿疹、アトピー性皮膚炎を疑う皮膚のがさがさ、赤みがあれば早めに皮膚科を受診しましょう。
湿疹、アトピー性皮膚炎の予防と治療
皮膚表面のバリアの異常と皮膚の炎症、それによるかゆみがアトピー性皮膚炎の原因です。 皮膚ががさがさして炎症が起き、皮膚のバリアが壊れた状態が続いてしまうと悪循環でさらに皮膚の炎症が悪化してしまいます。 そのため、ぬり薬や飲み薬などを使って炎症をしっかり抑え、皮膚がツルツルのいい状態を保つことがかかせません。
湿疹やアトピー性皮膚炎の治療はステップになっています。症状に応じて治療のステップアップが必要です。
Step1
軽い乾燥の状態では保湿剤で皮膚にうるおいをもたせ、皮膚のバリアを補強してあげることが必要です。
Step2
皮膚に赤みやがさがさが出た時は、乾燥だけでなく皮膚の炎症が起こってしまった証拠です。 皮膚の炎症をとるためには、ぬり薬が欠かせません。 ぬり薬としては、ステロイドやプロトピック、コレクチム、モイゼルトなどが皮膚の炎症をなくす効果があります。
Step3
ぬり薬で湿疹が治らない方は、紫外線治療を追加することが多いです。
Step4
紫外線治療で治らない方は治療が難しい方は、デュピクセントやミチーガという注射治療やネオーラルやオルミエント、 リンヴォック、サイバインコなどの専門的な内服薬が治療の選択肢となります。 費用負担も増えてしまいますが効果は高いものとなります。
アトピー性皮膚炎や湿疹を悪化させる原因として、 ハウスダスト、ダニ、イヌ・ネコ、マラセチア(皆さんの皮膚にいる真菌の一種)などのアレルギーがあります。 当院ではこれらのアレルギー検査が可能ですのでご相談ください。
保湿剤
保湿剤には大きく分けて軟膏、クリーム、ローション、フォーム(泡タイプ)の4種類があります。 軟膏は保湿力が強いですがべとつき、ローションはサラサラしてぬりやすいですが保湿力は劣ります。 クリームはその中間です。泡タイプは保湿力が少し弱いですが、とても使用感がよく使いやすいタイプになります。 クリニックで処方できるものにはヘパリン類似物質が成分の保湿剤(ヒルドイド、ビーソフテン)や 尿素が成分の保湿剤(ケラチナミン、ウレパール、パスタロン)がありますので、症状や部位に応じて処方します。 唇の保湿や乳児の保湿にはワセリンやプロペト(ワセリンを精製したもの)がより効果的なこともあります。 乾燥しやすい部分全体に毎日保湿をすることで、がさがさや赤みが出るのを予防できます。 一人一人に合った保湿剤を提案しますので、気軽にご相談下さい。 処方ではヒルドイド、尿素を使った保湿剤、ワセリンの3つの保湿剤が中心になりますが、 市販でもセラミド、ヒアルロン酸など保湿に有効な成分を用いたり保湿剤が販売されています。 処方の保湿剤が合わない場合には適切なものを指導します。
ステロイドのぬり薬
ステロイドのぬり薬というと怖い、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、
副作用の多いのは飲み薬のステロイドであり、ぬり薬はほとんど体に吸収されません。
ステロイドのぬり薬は種類も非常に多く、それぞれ特性があります。
微妙な効果の差やアンテドラッグというより副作用の弱い薬もありますので当院では使い分け、
患者様の状態にあったものを選択するようにしております。
湿疹に弱いステロイドを長く塗るよりも、適切な強さのステロイドを短期間使用した方が結果的に使用量も少なく、
副作用も少なく治療できることがわかっています。
またよくある誤解としてステロイドを塗ると皮膚が黒くなるのではないかと心配される方がいらっしゃいます。
これは正しくありません。
そもそも強い湿疹が起こるとその後に炎症後色素沈着という皮膚が一時的に茶色くなることがあります。
ステロイドで皮膚が茶色くなるのではなく、湿疹によって皮膚が茶色くなるのです。
むしろステロイドを塗って炎症を早く抑えたほうが炎症後色素沈着も起こりにくいので、うまくぬり薬を使うことが必要です。
当院ではステロイドの塗り方指導も行っておりますので、ご希望の方はご相談ください。
プロトピック(タクロリムス)
プロトピックはステロイドではない炎症を抑える成分が入っている塗り薬です。 ステロイドほどは皮膚の炎症を取る効果が強くないものの、 ステロイドを年単位で使うことでたまにみられる皮膚が薄くなる・弱くなるといった副作用がありません。 そのため、長く続く顔や首のアトピー性皮膚炎、お子さんの長引くアトピー性皮膚炎に使うことが多いです。 プロトピックの特徴としては、最初に使うときにヒリヒリしたような刺激感があります。 これは悪さをしているわけではなく、お薬が効く過程で刺激感を起こす物質を排出させているからであり、効き始めた証拠となります。 1~2週間程度使うとひりひりの刺激物がでなくなり、ひりひりを感じなくなってきます。 プロトピックはこの時期をいかに乗り切るかが鍵となります。
顔の症状は特に、保湿剤やステロイドなど他のぬり薬と組み合わせて使うと上手にアトピー性皮膚炎や湿疹を抑えることができるようになります。
小児用もありますので、2歳以上のお子さんにも使えます。
プロトピックはステロイドのような皮膚が薄くなる、血管が開く、といった副作用がないので長期間使っても比較的安全ですが、
顔に長い間使うとニキビや酒さを誘発して赤みやボツボツが逆に増えることがありますので、
定期的に経過をみながら使用していくことをおすすめしています。
私は、プロトピックの生みの親である江藤隆史先生にも直接ご指導頂き、
プロトピックをうまく使用するような様々なコツを心得ていますのでお気軽にご相談下さい。
コレクチム(デルゴシチニブ)
コレクチムは2020年からアトピー性皮膚炎に使われるようになった、比較的新しいぬり薬です。 湿疹やアトピー性皮膚炎の炎症を起こしているサイトカインというタンパク質を抑えることができるJAK阻害薬のぬり薬となります。 ステロイドやプロトピックなど異なる炎症を抑えるお薬です。 強いステロイドのぬり薬ほどの効果はないですが、プロトピックのような刺激感も少なく(ときに感じる患者様がいます)、 特に顔のかゆみや赤み、がさがさに使うことが多いです。お子さんや大人の方の体や手足のごく軽い湿疹にも使うことがあります。 0.5%が大人用、0.25%が小児用になりますので、2歳以上のお子さんのアトピー性皮膚炎でも使用可能です。
モイゼルト(ジファミラスト)
モイゼルトは2021年からアトピー性皮膚炎に使われるようになったぬり薬です。 日本で研究開発されました。 名称の由来は、潤い(MOIsture)のある正常な皮膚を確実(CERTainly)に取り戻すという願いを込めてモイゼルト(MOIZERTO)と命名されました。 皮膚に炎症を引き起こすサイトカインというタンパク質に関連したホスホジエステラーゼ4(PDE4)を抑えて皮膚の炎症を抑える新しいお薬です。 モイゼルトは免疫を調節するお薬で、コレクチムやプロトピック、ステロイドのぬり薬とは少し異なります。 コレクチムやプロトピックと同様、長期的な副作用が少ないですが、 強いステロイドのぬり薬ほど効果は強くないため顔・首の湿疹や体のごく軽い湿疹に使います。 モイゼルト軟膏は濃度が2種類(0.3%・1.0%)あり、2歳以上のお子様から使うことができます。
紫外線治療(光線療法)
アトピー性皮膚炎には紫外線治療が保険適応で行えます。 当院では体全体に紫外線を当てる「ナローバンドUVB」の装置、体の狭い範囲に紫外線を当てる「エキシマライト」のいずれも備えています。 紫外線を当てると皮膚の炎症を調節・抑制することができ、湿疹の赤み・かゆみ・がさがさをよくすることができます。 治療効果を考えると週2−3回の紫外線治療が理想ですが、週1程度の受診でも効果はあがります。 紫外線と言っても一部の波長のみを選択して体に当てるので、皮膚ガンのリスクは基本的には上がらないことがわかっています。 紫外線治療で紫外線を強く当て過ぎると日焼けのような赤みがでてしまうことがあるので、調節して治療していきます。 まめに通える方には副作用もほとんどないよい治療法ですので、ご相談ください。
抗ヒスタミン薬 飲み薬
湿疹のかゆみが強く、つらい方も多くいらっしゃいます。 副作用も少なく、かゆみを抑える飲み薬として「抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬」という アレルギーを抑える飲み薬をぬり薬に追加して処方することがよくあります。 花粉症の治療でもよく使われる、アレグラ、ビラノア、ザイザル、アレロック、タリオンなどの名前で知られる飲み薬になります。 これらの飲み薬はかゆみを少なくするお薬でぬり薬の補助であり、湿疹やアトピー性皮膚炎の治療での主役はやはりぬり薬になります。 これら飲み薬も眠気や効果、またより効果を実感しやすいタイプの患者様などいらっしゃいますので、 アトピー性皮膚炎のかゆみについてもお気軽にご相談ください。
ネオーラル(シクロスポリン) 飲み薬
強いステロイドのぬり薬でも抑えられない広範囲の赤みやがさがさがあり、まめに紫外線治療を受けられない、 という方には「ネオーラル(シクロスポリン)」という飲み薬を処方することがあります。 こちらは強く全身の炎症を抑える薬ですので、アトピー性皮膚炎による赤みやかゆみといった炎症の反応を抑えることができます。 3ヶ月間までは連続して保険適応で処方が可能です。3ヶ月後飲んだ後に2週間以上休薬期間が必要です。 血圧が上がる、腎機能が悪化するといった副作用が長期使用した場合には報告されているので、定期的な採血や血圧測定が必要になります。 感染症にかかりやすくなる可能性もあり湿疹がとても強いときに短期間のみ処方することが多くなります。
JAK阻害薬 飲み薬 オルミエント(バリシチニブ)、リンヴォック(ウパダシチニブ)、サイバインコ(アブロシチニブ)
湿疹やアトピー性皮膚炎の炎症を引き起こしているタンパク質であるサイトカインを抑えるお薬です。 今までの内服薬より効果が高く、炎症を強く抑える効果があり関節リウマチなどでも使われているお薬になります。 アトピー性皮膚炎にも保険適用で使えるようになりました。 効果が高い分、副作用もありますので採血やレントゲンなど定期的な検査も必要になります。 大学病院や総合病院と連携して治療を行います。
デュピクセント(デュピルマブ) 注射薬
皮下に注射を定期的に行うことでアトピー性皮膚炎の炎症を抑えて治療するデュピクセント(デュピルマブ)という注射薬も使われています。 私も東大病院皮膚科にて臨床研究の段階から関わったお薬になります。 アトピー性皮膚炎の炎症のかなり大元にある、インターロイキン4や13というタンパク質を抑えることで、皮膚の炎症を抑えることができます。 他に気管支喘息にも保険適応で効果があります。 アトピー性皮膚炎の患者さんには気管支喘息をお持ちの方も多くいらっしゃいますので配慮して使用しています。 副作用も結膜炎など大きなものはなく、安心して使える薬です。 ただし、注射薬でもアトピー性皮膚炎の根本を治療しているわけではありませんので、使用をやめるとその効果は切れてしまいます。 特殊な治療にはなりますので、当院では処方せず大学病院や総合病院に紹介させていただいております。
ミチーガ(ネモリズマブ) 注射薬
こちらも皮下に注射を定期的に行うことでアトピー性皮膚炎のかゆみを抑える注射薬になります。 こちらも私が東大病院皮膚科にて臨床研究の段階から関わったお薬になります。 アトピー性皮膚炎のかゆみに関係するインターロイキン31というタンパク質を抑えることで、湿疹のつらいかゆみを抑えることができます。 この注射薬も副作用が少なく安心して使えるお薬になります。 こちらも使用をやめるとその効果は切れてしまいます。 特殊な治療にはなりますので、当院では処方せず大学病院や総合病院に紹介させていただいております。