乾癬は、昔はぬり薬の治療しかありませんでしたが、飲み薬や注射薬などかなり多くの新薬が使えるようになり皮膚科の中でも注目を浴びている分野です。
乾癬の治療がここまで進歩したのは乾癬の病気のメカニズムがかなりわかってきたからです。私も東大医学部の大学院で、乾癬のマウスモデルを用いた実験を行い乾癬のメカニズムの解明を行っておりました。また東大皮膚科や東京警察病院にて、尋常性乾癬や乾癬性関節炎といった乾癬患者に注射薬、内服治療、紫外線治療、ぬり薬治療を組み合わせ多数の患者様の治療にあたってきました。
当院でも、軽症から重症の乾癬患者様のお力になれるように治療選択肢をそろえ、治療を行っています。ぬり薬による治療はもちろん、内服治療や全身に紫外線を当てられる「ナローバンドUVB」、体の一部の乾癬の症状に対する「エキシマライト」の両者を組み合わせて専門的な保険診療を行っています。
乾癬とは
乾癬は、皮膚が赤くがさがさする疾患です。赤くがさがさというと、いわゆる湿疹を想像される方も多いと思いますが普通の湿疹より、がさがさが強く、雲母状と言われるほどがさがさが強くなることがあります。また湿疹に比べ、赤くガサガサしているところと周りの普通の肌との境界がくっきりしていることが多くなります。頭皮や髪の生え際、肘、膝、腰のまわりなどにできることが多くなります。
専門用語で症状は、皮膚が赤く盛り上がる「紅斑(こうはん)」、皮膚が盛り上がる「浸潤・肥厚(しんじゅん・ひこう)」、細かいかさぶたのような「鱗屑(りんせつ)」、フケのようにボロボロとはがれ落ちる「落屑(らくせつ)」と分けられます。
現在、日本の乾癬患者さんは約50~60万人(人口の0.4~0.5%)と推計されています。欧米(人口の2~3%)に比べると少ないですが、近年は生活習慣の変化などさまざまな要因から、日本でも患者さんの数が増加しています。
日本における男女比は2:1と、男性の方が多くみられます。発症年齢は思春期から中年以降と幅広いですが、男性では50歳代、女性では20歳代と50歳代が多いとされています。
乾癬の病気の仕組み
乾癬の治療がすすんだ理由として、乾癬のメカニズムがわかってきたことがあります。乾癬にはT細胞という免疫に関係する細胞のうち、Th17(ティーエイチ17)という細胞が大きく関係しており、この細胞がIL-17やIL-22という炎症を起こすタンパク質を出し、皮膚に炎症を起こしていきます。皮膚にこれらタンパク質が作用すると皮膚が厚くなる(肥厚する)、皮膚のターンオーバーが早くなりがさがさする、皮膚の血管が増え赤くみえるようになります。
またさらにそのタンパク質が関節にも炎症を起こすようになり、関節症性乾癬という関節痛も起こしてしまいます。
Th17細胞は、樹状細胞というまた違う免疫の細胞にIL-23というタンパク質で刺激されておりと、乾癬のメカニズムの流れがかなりわかってきています。
乾癬の種類
乾癬は、尋常性乾癬、乾癬性関節炎、滴状乾癬、乾癬性紅皮症、汎発性膿疱性乾癬の5種類に分類されます。
尋常性乾癬の「尋常性」はよくみられる、ありふれたという意味で、尋常性乾癬が乾癬のうち90%を占めます。
乾癬性関節炎は、関節が腫れたり、痛んだり、ときに関節の変形をおこすものです。関節の腫れは、手や足の指の関節に多く見られ、ソーセージ状に腫れてしまうことがあります(指趾炎・末梢関節炎)。また足裏の腱やアキレス腱に炎症が起こることや、膝や股関節、肩、肘に痛みや腫れが現れることもあります(付着部炎)。骨盤にある関節や脊椎の炎症が起こると、背中や首、腰に痛みやこわばりが現れます(体軸関節炎)。
滴状乾癬(てきじょうかんせん)は若い人に多く、溶連菌感染(扁桃炎)の後などに、水滴ぐらいの大きさ(直径1cm程度)の小型の赤い斑点が、急に全身に現れます。溶連菌感染の治療によって治ることが多いのですが、まれに慢性に続いてしまう尋常性乾癬に移行してしまうこともあります。
乾癬の治療について
乾癬の治療はピラミッドになっています。症状の強さによって、ぬり薬、紫外線治療、飲み薬、注射薬を合わせて治療行っています。
ぬり薬による治療
乾癬の治療にはまずぬり薬を使います。ビタミンD3のぬり薬(オキサロール、ドボネックス、ボンアルファなど)もしくはステロイドのぬり薬(デルモベート、アンテベート、フルメタなど)です。
乾癬では皮膚のターンオーバーが異常になっており、かさかさしています。ビタミンD3のぬり薬は、この異常なターンオーバーをおさえ、皮膚を正常な状態に導いてくれます。注意点としては、効果が現れるのが遅く、2~3ケ月かかってしまいます。塗った部分にヒリヒリした刺激感を感じることがありますが、長期間使用しても皮膚が薄くなる心配がなく、皮膚の感染症がおこる副作用が増えません。
ステロイドのぬり薬は、皮膚の炎症をおさえて赤みを改善する効果があります。効き目が早いのが特徴ですので、乾癬の症状が強い時期に集中的に使います。短期間で効果が現れますが、長い間使い続けると皮膚がうすくなったり、皮膚の感染症を起こしやすくなったりすることがあります。
このようにビタミンD3のぬり薬はゆっくり皮膚が厚くなるのをよくする作用、ステロイドは即効性があり炎症と赤みをおさえる効果があるため、同時に使い、より効果を高めることができます。現在では、ステロイドと活性型ビタミンD3が混ざった1日1回塗るタイプの塗り薬も発売されています。ドボベットとマーデュオックスという2種類あります。ドボベットは、軟膏タイプだけでなく、泡タイプやゲルタイプもあり使いやすくなっています。
飲み薬による治療
「チガソン」、「ネオーラル」、「リウマトレックス」といった以前から使われてきた飲み薬に加えて、「オテズラ」という新しい治療薬が使えるようになりました。当院でも保険適応で扱っています。「オテズラ」は副作用の少ない治療であり、紫外線治療やぬり薬の治療でも効果が不十分の患者様にも適しています。また乾癬の炎症を起こしているタンパク質を抑える「ソーティクツ」という新しい飲み薬も注射薬に匹敵するような効果を報告している論文もあります。塗り薬や紫外線で治りにくい乾癬がある方はお気軽にご相談ください。
注射薬による治療
乾癬のメカニズムがわかっていくにつれて注射薬の治療が進歩しました。注射のお薬は、乾癬の症状を悪くしているタンパク質をそれぞれターゲットにし、ピンポイントでおさえて治療していきます。効果も高いのですが、定期的にレントゲンや採血を行わなければならないため大きな病院を定期的に受診しなければならなりません。重症の乾癬の場合は当院から東京大学医学部附属病院、帝京大学医学部附属病院などに紹介し、これらの注射薬を検討してもらいます。